こどもの睡眠時間②~未だ謎の多い睡眠の話~
今回は引き続き子どもの睡眠時間に関して話します。まずは、①「子どもの睡眠の謎」②「適正な睡眠時間」の2点についてです。
①「子どもの睡眠メカニズム」
子どもに限らず、睡眠のメカニズムは科学が進歩した現代においてもわかっていないことが多いです。今回はその中でも分かっていることを簡単にお伝えします。
子どもが眠っている間には一次成長ホルモンと呼ばれるホルモンが分泌されています。これは身体的な発達・成長を促すホルモンです。これは寝ている間に最も多く分泌されます。昔から言われている「寝る子は育つ」はまさに科学的にも証明されている事実なのです。そして、この一次成長ホルモンにはもう一つ重要な役割があります。それは「二次成長ホルモンの分泌を抑える」働きがあります。二次成長ホルモンとは思春期(およそ13~18歳頃)に多く分泌される男女の性に関わる発達・成長を促すホルモンです。簡単にまとめると生殖可能な身体へと移行するためのものです。ここで、「そもそも幼いこどもには出てないでしょ?」と思われる方もいるでしょう。実は、二次成長ホルモンは幼児・学童期でも分泌されているのです。それを抑えているのが一次成長ホルモンというわけです。
なので睡眠時間が足りないと、健全な成長が進まず、本来ならこの時期に起こるはずのない発達が行われてしまう可能性があるのです。
私が知っている事例だと、小学二年生(8・9歳)で初潮を迎えた女児がいます。彼女はご両親のお仕事上生活リズムが不規則で、睡眠時間が短くかつ不規則でした。
びっくりされる方もいると思いますが、事実です。
その女児はその後、ご家庭への生活リズムの改善指導と通院により健全な状態へと改善していきました。この事例で行くと改善へ向かっていったので安心ですが、すべてが上手くいくわけではないと思うので注意が必要です。
この事例のように早すぎる第二次成長は、身体的な成長が未発達の状態で起こるのでその児童が大人になった時に生殖や妊娠に何らかの影響があることが懸念されています。
睡眠ってほんとに重要ですよね。
②「適正な睡眠時間」
①で述べた事で気になるのは、「じゃあ、適正な睡眠時間は?」ですよね。実はここがとても謎が多いものになります。
2023年に厚生労働省による「睡眠指針」が10年ぶりに改訂されました。正式名「健康づくりのための睡眠ガイド2023」です。これには乳幼児~成人までの全年齢層の睡眠について「推奨される」睡眠の量と質が示されています。今回はこれに触れながら考えていきましょう。
ここで一つ前置きをお伝えします。日本は成人の平均睡眠時間が先進33か国中で一番短いのです。(断トツ)
そして睡眠時間と他の健康面での比較を見ると睡眠時間が短い=不健康とは言えないかもしれません。
まず、国立がんセンターが行った睡眠時間と死亡リスク相関関係(因果関係ではない。)ではむしろ睡眠時間が長い方が死亡リスクが高くなったりします。また私の見解ですが、先進33か国中の平均寿命で日本は断トツ1位です。
この見解が睡眠と健康に直結する結論ではありませんが、このように分からないことも多いということです。
そして「健康づくりのための睡眠ガイド2023」で示されている推奨されるこどもの睡眠時間は、以下の通りです。
1~2歳児 | 11~14時間 |
3~5歳児 | 10~13時間 |
小学生 | 9~12時間 |
中高生 | 8~10時間 |
この表を現役園長の立場から見るに「その通りだな。」と思います。おおよそ、こども園・保育園期は11~13時間は必要だ(もちろん研修や勉強を経て)という持論がありましたので、少しホッとしました。
ここからは私の見解ですが、近年は共働き世帯が増えています。すると必然的にこどもたちは、保育園・こども園や学童・トアイライトスクールで過ごす時間が長くなります。プライベートで自由な家庭ではなく、ルールある社会で過ごす時間が圧倒的に長くなります。そこがどんなに好きな居場所になっていたとしても、心身的には疲労が蓄積される環境です。十分な睡眠は①で述べた発達・成長面の理由以外にも心身の休息面においても絶対必要だと思うのです。
しかし、上記の表と内容を聞いて働くお母さんたちは「こどもに、こんなに睡眠時間は取れない」「寝てくれないからしかたない」と思われる方もいるかと思います。フルタイム共働きで、生活をまわしている家庭にとってはとても大変だとは思います。これについては、次回の投稿で私がよく睡眠の相談でお伝えしているアドバイスをお伝えしたいと思います。
最後に、前置きの睡眠時間と健康面の相関関係では触れていない部分を伝えたいです。
近年、こどもを含めた若年層の心の問題が増えています。特にこどもの自死は年々増えており、若年層の死亡理由1位を何年もキープしています。これは先進33か国中でも1位です。そしてこどもの自己肯感を確認する国際的な調査でも日本は断トツ最下位で、自分に自信や希望がない子が多いという国となっています。
そしてなんと、こどもの平均睡眠時間は33か国中で断トツの短さで、世界で最も寝ないこども達の国となっています。
これらの事実に科学的な因果関係や相関関係があるとは証明されていませんが、危機感を持っている保育・教育関係者は、私だけではないと思います。
何とかしなければいけませんね。